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▼ お題ラクガキ
■「風の道さき」お題SS
配布元:bird of passage

成宮さんの想い。
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【しあわせをくれたひと】

 しんと澄んだ月の青さが、依然部屋の壁を染めていた。
 カーテン越しに感じる空の色を夜明けと呼ぶまでには、まだもう少し待たなければならない。

 何の前触れも無く、ふっと意識が浮上して、ぱちりと瞼を上げると、何処か遠くから車の行き交う音が聞こえてくる。
 だが、視界に映る朧な色彩が、まだ目覚める時間ではないことを教えていた。
 自分を包んでいる腕をそっとずらし、上体だけを起こして、傍らですぅすぅと規則正しい寝息をたてている存在に目を向けた。
 白々とした夜の色に縁取られた輪郭は、ひとつだって稚拙な線を描いてはいない。
 目に掛かる長めの髪は、仕事時は帽子の中に隠されていて、私生活の彼とは、少し印象が異なる。
 帽子を取り去り、彼の精悍な顔立ちに流れる黒髪は、その凪いだ闇色の瞳と相俟って、深淵とした艶やかさを感じさせる。
 そっと指を伸ばして、髪先に触れると、陽に晒されることも多く、傷みもするだろうに、思いのほかパサつきも少なく、サラ、となめらかに滑り落ちた。
 綺麗な弧を描く眉は、彼の気性をそのまま映したように、雄々しいが故の穏やかさを持って、自分がどんなに我侭を言っても、険しく逆立ったところなど見たことがない。
 いつも懐深く受け入れて、時に不用意な振る舞いを窘められることもあるけれど、それは彼が自分を大事に思ってくれるからだ、ということは充分に伝わっていた。
 彼の大きな気持ちで包まれて、傷つくことに怖じ気ていた想いを素直に解き放つと、今度はどうどうと止め処なく溢れ出て、静まらなくなってしまう。
「――…っ」
 こみ上げてくる愛おしさを抑えきれずに、それが熱い滴に変わる。
 健やかな呼吸を生み出している逞しい胸に額を当て、はらはらと落ちていく涙が、成宮の想い全てだった。
 心の深い深いところから、慕わしさの波が、途切れることなく押し寄せてくる。
「アヤさん…?」
 自分の胸に置かれた頭を反射的により近くへと引き寄せて、眠りから覚めたばかりの久我が相手の様子を訝しむ。
「ご…めん、俺泣いてばかりいる」
 哀しい訳ではないのに――
 また余計な心配を掛けてしまう、と成宮が申し訳無さそうに目を伏せた。
 ぱたぱたと胸の上に降ってくる切なさに、ふっと漆黒の双眸を瞬かせて、彼は何も言わず成宮の身体をただぎゅっと抱き締めた。
 寄せた胸から、とくとくと脈打つ心音が耳に伝わってくる。
 力強い鼓動に導かれるように、温かい気持ちは残して、苦しいまでに昂ぶりすぎた感情が徐々に静まっていく。
 不思議なほど穏やかで、幸せだけが満たされていく感覚が、何処か面映くて、包まれた腕の中で頬を擦り付けた。
「子供が母親に抱かれると安心するのが判る気がする…」
「――…俺がアヤさんの母親ですか?」
 成宮の溜め息のような呟きに、久我が複雑な表情で、くい、と柳眉を上げた。
 ぼやく彼に、「え…」と小さく声を漏らし、
「…それは困る…けど」
 戸惑ったように眉を落として、ぽそぽそとそう言うと、奇麗な石英の瞳でじっと上目遣いに見つめてくる。
 どうしてこんなにも可愛らしいのか――
「俺も困ります」
 彼に対しては、肉親の情とは全く異なる想いを抱いているのだから――
 久我は、すっと切れた目尻を和ませて、まごついている花唇を柔らかく啄んだ。
 甘い口づけを受けて、嬉しそうに微笑む彼を、夜が明けるまで、どうやって愛おしんでやろうか、と久我は密やかに思案するのだった。

fin.
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